秦アキラ
秦アキラ
株式会社NARERU 代表取締役

南信州・飯田市で生まれ育ち、地域の中小企業のAI活用・SNS運用・Web集客を支援。「地域の事業者を、テクノロジーでもっと自由に。」をミッションに、株式会社NARERUを経営しています。

中の人」を見せれば、ファンはもっと近づいてくれる——そう信じて出したのが、ほっ湯あっぷるの〈従業員インタビュー〉だった。日帰り温泉施設のスタッフが、開店前の床を黙々と磨く。等身大で、誠実な一本。だが結果は再生901回、いいね0、保存1、フォロー+0。ほっ湯のリール8本のなかでは下位に沈んだ。なぜ、この回は届かなかったのか。株式会社NARERUが運用する実データのまま、盛らずに解剖する。

3行でわかる、この回のまとめ
🎯
狙い|施設で働くスタッフの裏側を見せ、「人」でファンとの距離を縮める。等身大の温泉施設の魅力を伝える回。
📊
結果|再生901回・いいね0・保存1・コメント0・フォロー+0。ほっ湯のリール8本のなかで下位に沈んだ、伸びなかった回。
🔍
課題と次の一手|「中の人」は内向きの話になりやすく、まだファンでない人の関心とはズレる。狙いを“誰のための動画か”から立て直す。
秦アキラ
AUTHOR
秦 アキラ / 代表取締役・株式会社NARERU

BACKGROUND

「人を見せれば近づける」という仮説

ほっ湯あっぷるは、地域に根ざした日帰り温泉施設だ。SNS運用は株式会社NARERUが手がけ、施設の魅力をInstagramリールで一本ずつ届けている。フォロワーの多くは、すでに足を運んだことのある地元のお客さま。だからこそ「人」を見せれば、もっと親しみを持ってもらえる——その仮説のもとに企画したのが、この〈従業員インタビュー〉だった。

開店前の静かな館内で、スタッフが床を磨く。飾らない裏側の風景に、働く人の言葉を重ねる構成だ。サービスの裏にいる「人」を伝えることで、施設への信頼と親しみを育てる——狙いそのものは、決して間違っていなかった。だが数字は、想定とは違う答えを返した。


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冒頭が「掃除の風景」から始まった

冒頭に映るのは、明るい光が差し込む室内で、ピンクのシャツを着たスタッフがモップで木の床を磨く後ろ姿だ。窓のカーテン、隅に積まれた青いマット——生活感のある、静かな現場の一コマ。テロップによる強い問いかけや、結論の先出しはない。あるのは、誠実だが“説明を必要とする”日常の風景だった。

ここに、伸びなかった理由の入口がある。リールの冒頭は、スクロールの指を止める「一瞬の引力」が勝負だ。掃除をする後ろ姿だけでは、「この続きを見たい」と思う理由が弱い。温泉施設に期待されるのは、湯けむり・料理・くつろぎといった“ご褒美の画”。開店前の作業風景は、その期待とは別の方向にあった。

開店前、誰も見ていない床を磨く——その裏側を見せたかった。

掃除の後ろ姿引力が弱い冒頭
説明が要る画一瞬で伝わらない
内向きのテーマ既存ファン向き

「中の人」を見せる企画は、すでにそのお店を好きな人には響く。だが、まだファンでない人にとっては「自分に関係のない、よその職場の風景」に見えてしまう。冒頭3秒で「自分に関係がある」と感じさせられなかったこと。それが、再生が伸びなかった最初のつまずきだった。

冒頭で“止められなかった”原因
  • 後ろ姿+作業風景は、視聴者が「続きを見る理由」を読み取りにくい
  • 温泉施設に期待される“ご褒美の画”と、冒頭の現場感がズレていた
  • 結論や問いを先出しせず、画の説明を視聴者にゆだねてしまった
ほっ湯あっぷる〈従業員インタビュー〉冒頭カット
冒頭カット。明るい室内で、スタッフが開店前の床をモップで磨く後ろ姿。誠実だが、一瞬で続きを期待させる引力は弱かった。

DATA ANALYSIS

数字を読む ― 901回再生の中身

伸びなかった回だからこそ、数字を正直に並べる。再生901回に対し、その先の反応——いいね・保存・コメント・フォロー——がほとんど動かなかった。これが何を意味するのかを読み解く。

901回
再生数(ほっ湯8本で下位)
ほっ湯のリール8本のなかでは下から数えるほうが早い。最高の〈秘密〉2,192回の半分以下で、配信がほとんど広がらなかった。
0
いいね(コメントも0)
901回見られて、いいねもコメントもゼロ。これは「再生はされたが、心が動かなかった」というはっきりしたサイン。盛らずに受け止める。
1件
保存数
「後で見返したい」と思った人がほぼいなかった。保存は内容の価値を映す指標で、ここが1件=刺さりは弱かった。
+0人
この動画経由の新規フォロー
901人前後に届いても、フォローは1人も増えなかった。「この先も見たい」と思わせる引きが、この回にはなかった。

大事なのは、再生901回が「見られなかった」のではなく「見られても次が動かなかった」という点だ。いいね0・保存1・フォロー+0は、配信を広げる燃料になる“深い反応”が生まれなかったことを示す。深い反応が出ないと、Instagramのアルゴリズムは新しい人へ配信を広げない。901回で止まったのは、その結果だ。


COMPARISON

ほっ湯8本のなかでの位置 ― 並べて見る

同じ施設、同じ運用、同じ連載の中で、〈従業員インタビュー〉はどこにいたのか。ほっ湯のリール8本の再生数を並べると、その位置がはっきり見える。

再生数の比較(ほっ湯あっぷる・リール8本/計測 6/24時点)
秘密 2,192
イベント 1,867
極上 1,541
帰省 1,083
毎日 958
従業員 901
家族 811
ご褒美 590

最高は〈秘密〉2,192回、〈イベント〉1,867回が続く。〈従業員〉は901回で下から3番目。施設のお湯・料理・季節の魅力をストレートに見せた回が上位に並び、「中の人」の裏側を見せた回は下位に沈んだ。テーマの選び方ひとつで、同じアカウントでも倍以上の差がつくことを、この並びが示している。


WHY

なぜ〈従業員インタビュー〉は届かなかったのか

理由は2つに整理できる。1つはテーマが「内向き」だったことだ。「中の人」「働く裏側」は、すでにその施設を好きな既存ファンには響く。だが、まだファンでない人——リールが新たに届く大多数の人——にとっては「自分に関係のない、よその職場の話」になりやすい。温泉施設に期待されるのは“自分が癒される未来”であって、スタッフの作業風景ではなかった。届く相手と、見せた中身がズレていた。

もう1つは冒頭の引きが弱かったことだ。掃除をする後ろ姿から静かに始まる構成は誠実だが、最初の数秒で「この続きを見たい」と思わせる引力に欠けた。冒頭で止められなければ、最後まで見る人も、深い反応を返す人も増えない。深い反応が出なければ、アルゴリズムは配信を広げない。「内向きのテーマ × 弱い冒頭」が重なり、901回・いいね0という結果に着地した。


ISSUES

残った課題 ― 「人」の見せ方を立て直す

「中の人」を“見る人の得”に翻訳しきれなかったこと。
スタッフの裏側は、見せ方次第で武器になる。だが今回は「働く姿を見せる」で止まり、視聴者にとっての得(このスタッフがいるから安心、ここまで掃除しているから清潔)まで届かなかった。次は「誰の・どんな得になるか」を冒頭で言い切る設計に変える。
冒頭3秒を、後ろ姿ではなく“フック”から始めること。
掃除の風景は2カット目以降に回し、冒頭は「ここまでやってる温泉、知ってますか?」のような問い・結論の先出しで掴む。同じ素材でも、出す順番を変えるだけで止まる確率は上がる。伸びた上位回(秘密・イベント・極上)の冒頭設計を、次の企画に標準装備する。

TAKEAWAY

この事例から学べること

伸びなかった回が教えてくれた3原則
  • 「中の人」は“見る人の得”に翻訳する。裏側を見せるだけでは内向き。視聴者の安心・清潔・信頼に結びつけて初めて届く
  • 冒頭は後ろ姿ではなく問い・結論から。同じ素材でも、出す順番ひとつで「止まる確率」は変わる
  • テーマは“誰に届けるか”から逆算する。既存ファン向けの内容を、まだファンでない大多数に配ると数字は伸びない

〈従業員インタビュー〉が示したのは、誠実さや企画の善し悪しと、SNSで伸びるかどうかは別の問題だということだ。901回・いいね0という数字は痛いが、これは失敗ではなく情報だ。なぜ届かなかったかが分かれば、次の一本は確実に良くなる。

株式会社NARERUは、伸びた回も伸びなかった回も、隠さず数字のまま読む。下位の回を「なかったこと」にせず、勝ち筋と負け筋の両方を次の設計図に変えていく。それが、成果を正直に見せるSNS運用の仕事だ。ほっ湯あっぷるの発信は、まだ続く。