秦アキラ
秦アキラ
株式会社NARERU 代表取締役

南信州・飯田市で生まれ育ち、地域の中小企業のAI活用・SNS運用・Web集客を支援。「地域の事業者を、テクノロジーでもっと自由に。」をミッションに、株式会社NARERUを経営しています。

7本のなかで、最も伸びた一本だった。再生1,143回、保存12件。世間的なバズの基準からすれば、決して派手な数字ではない。けれどこの一本には、PRO-motionというアカウントが進むべき方向の“正解”が、はっきりと刻まれていた。なぜこれが7本で最高だったのか。そしてこの結果から、整体・コンディショニング院がSNSで成果を出すための原則を、数字と現場の言葉から徹底的に読み解いていく。


BACKGROUND

PRO-motionというアカウントの実態

PRO-motion(プロモーションコンディショニング)は、整体・コンディショニングを軸に、ランナーやスポーツ愛好家の身体の悩みに応える専門院だ。痛みを取るだけでなく、「もっと速く、もっと長く走れる身体」へと導くことを強みにしている。一般的な整体院が「痛みの除去」を売りにするのに対し、PRO-motionは「パフォーマンスの向上」まで踏み込む。この立ち位置が、SNSでの発信内容を大きく左右することになる。

Instagramでは、症状を特定したサムネイルでターゲットを絞り、悩みを持つ人にピンポイントで届ける「情報提供型のフィード運用」を続けてきた。リール(動画)が冒頭3秒のインパクトで勝負するのに対し、フィード投稿は複数枚の画像で“読ませて理解させる”メディアだ。専門性を分かりやすく図解できるフィードは、コンディショニングという「知識で信頼を得る」業態と相性がいい。

ただし、運用初期は試行錯誤が続いた。ターゲットを整体の既存客に向けるか、ランナーに向けるか、さらにその中でも初心者か記録志向か――狙う層が定まらず、1本ごとに方向が揺れた時期があった。そのなかで、この「お尻の使い方」の回は、はじめて“既存フォロワーの実態”にぴたりとハマった一本になった。


TARGET DESIGN

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なぜ“記録を目指すランナー”の、“お尻”だったのか

この回が狙ったのは、フルマラソンで記録を伸ばしたい本気のランナーだ。完走が目標の初心者ではなく、タイムを1秒でも縮めたいと考える層。彼らにとって「お尻(臀筋)の使い方」は、趣味の豆知識ではなく、走力に直結する切実なテーマである。

ランニングにおいて、臀筋は推進力の源だ。多くの市民ランナーは太ももの前側(大腿四頭筋)に頼って走り、お尻を使えていない。その結果、後半に失速し、膝や腰を痛める。「お尻を使えると、楽に速く走れる」――この因果は、記録を追うランナーほど強く反応する。つまりこのテーマは、ターゲットの“伸ばしたい欲”に直接火をつける設計だった。

「ランナー必見、“お尻”の正しい使い方」

記録志向ランナー本気層を特定
お尻の使い方走力に直結
ランナー必見当事者を呼ぶ

「ランナー必見」という言葉は、当事者だけを振り向かせるフィルターだ。ランニングに無関心な人は素通りするが、走る人は「自分のことだ」と立ち止まる。リーチは絞られるが、絞られた先に“濃い当事者”が残る。この絞り方が、後述する高い保存率を生むことになる。


CONTENT DESIGN

“情報”を“信頼”に変える見せ方

情報提供型のコンテンツで最も重要なのは、「この人はプロだ」と一瞬で感じさせることだ。同じ知識でも、素人が語れば聞き流され、専門家が語れば保存される。その“専門家らしさ”を、文章ではなく見た目で伝える必要がある。

この回で効いたのは、矢印や図解を使った「プロの解説感」だった。身体のどこがどう動くのかを、矢印で可視化する。言葉で「臀筋を使いましょう」と言うのではなく、図で「ここが、こう動く」と見せる。視聴者の頭の中に像が結ばれ、「なるほど」という納得が生まれる。この納得こそが、保存ボタンを押させる原動力だ。

情報提供型フィードにおいて、矢印・図解・ビフォーアフターは単なる装飾ではない。それは“専門性の可視化”であり、信頼を瞬時に伝える言語だ。PRO-motionのような専門院にとって、この見せ方の精度がそのままブランドの信頼度になる。


DATA ANALYSIS

数字を読む ― 1,143回の中身

再生数そのものより、その再生が「どんな行動を生んだか」が重要だ。この回の4指標を、7本の運用実績のなかで読み解く。

1,143回
再生数(7本中1位)
7本で最高のリーチ。既存フォロワー層にテーマがぴたりとハマった結果。
12件
保存数(7本中1位)
最多の保存。保存率1.05%は、梅松苑の人気リールをも上回る。実用情報は“練習で見返す”ために保存される。
13件
いいね
安定した反応。届くべき人にしっかり届いた証拠。
0人
新規フォロワー
既存層には強く刺さったが、外への拡散=新規獲得の設計は次の課題として残った。

注目すべきは保存率だ。再生1,143に対し保存12件は、保存率にして約1.05%。これは観光施設・梅松苑の最も伸びたリール(保存率0.197%)の5倍以上にあたる。なぜここまで高いのか。答えは「実用性」だ。風景やグルメは“見て楽しむ”が中心だが、走力アップのノウハウは“あとで実践するために残す”もの。整体・コンディショニングのような専門知識は、本質的に保存と相性がいい。

つまりPRO-motionにとって、追うべきKPIは「再生数」よりも「保存数・保存率」だ。再生は一瞬で流れるが、保存は「この人を覚えておきたい」という意思表示であり、来院の先行指標になる。バズらなくても、保存される動画を積み重ねることが、専門院の資産になっていく。


WHY IT WORKED

なぜ7本で“最高”だったのか ― 1枚の対比

この回がなぜ伸びたかは、伸びなかった回と並べると一瞬で分かる。同じ運用期間の「女性ランナー股関節」の回(1,065回・フォロー0)と比べてみる。内容の質はどちらも高い。違ったのは、たった一つだった。

お尻の使い方(最高)
1,143回 / 保存12件
既存フォロワー=記録志向の男性ランナーに、彼らが本当に知りたい走力情報を提供。「今いる人」にど真ん中で刺さった。
女性ランナー股関節
1,065回 / フォロー0人
内容は良質。だが既存フォロワーは男性が多く、女性向けテーマと属性がズレた。良い内容でも“届け先”が違えば伸びない。

この対比が示す真実は重い。SNSの投稿は、まず既存フォロワーに配信され、その反応(いいね・保存・滞在時間)を見て、アルゴリズムが「外に広げるか」を判断する。最初の読者である既存フォロワーが「自分向けじゃない」とスルーすれば、そこで拡散は止まる。どんなに良い内容でも、だ。

PRO-motionのフォロワーは「記録を目指す男性ランナー」。この事実こそが、コンテンツ設計の出発点であるべきだった。お尻の回はそこに合致し、女性股関節の回はそこから外れた。内容の優劣ではなく、“今いる人に合うか”――それが成否を分けた。


FROM THE FIELD

現場の言葉から読み解く

運用担当・中村のふりかえり
「フォロワーは割としっかりマラソンをしている男性が多いのか、コンテンツが既存フォロワーにちゃんと届いた。」

中村のこの一言には、運用者として最も重要な“気づき”が凝縮されている。それは「自分のアカウントのフォロワーが、実際には誰なのか」を、結果から逆算して掴んだ瞬間だ。多くの運用者は「誰に届けたいか(理想)」でコンテンツを作る。だが伸びるのは「実際に誰がいるか(現実)」に合わせたときだ。

7本を通して、PRO-motionのフォロワー像は「記録志向の男性ランナー」だと判明した。この発見は、失敗した回(女性股関節・足首の捻挫など、該当者の少ないテーマ)があったからこそ得られた。失敗は、フォロワーの輪郭を浮かび上がらせる“測定器”でもあった。お尻の回の成功は、その測定の答え合わせだったといえる。


ISSUES

残った課題 ― 「既存層に強い」の先へ

7本で最高でも、新規フォロワーは0だった。
既存フォロワーには深く刺さったが、外への拡散=新規獲得は生まれていない。情報が「今いる人」の中で完結している状態だ。アカウントを成長させるには、既存層を満足させつつ、新規が入ってくる入口(保存・シェアされやすい“まとめ系”や、初心者でも分かる普遍テーマ)を別に用意する必要がある。
“来院”への導線が、まだ弱い。
保存は来院の先行指標だが、保存した人を実際の予約につなげる一手(プロフィールでの予約導線、保存者へのフォロー投稿、来院特典など)が設計されていない。「保存される」から「来院される」への橋渡しが、次の伸びしろだ。

TAKEAWAY

この事例から学べること

専門院がSNSで成果を出す3原則
  • 「届けたい人」ではなく「今いる人」に合わせる。フォロワーの実態を結果から掴み、その人の役に立つ情報を出す
  • 追うべきは再生数より「保存」。実用情報は保存され、保存は来院の先行指標になる
  • 専門性は「見た目」で伝える。矢印・図解・ビフォーアフターが信頼を一瞬で可視化する

この「お尻の使い方」の一本は、派手なバズではない。だが、PRO-motionというアカウントが「誰のためのものか」を確定させた、運用上の転換点だった。記録を目指す男性ランナーに、走力に直結する実用情報を、プロの見せ方で届ける――この型が見えたことが、1,143回という数字以上の収穫だ。

私たちは、数字を感覚ではなく仕組みで読む。なぜ伸びたか、なぜ伸びなかったかを1本ずつ言語化し、次の設計に反映する。その積み重ねが、クライアントの成果を着実に前へ進めていく。残る6本も、同じ視点で解剖していく。